最初に売った財布は、3年目の夏に糸が切れて戻ってきました。持ち込んだのは、工房を始めた年のいちばん最初のお客さんでした。あのとき使っていた4つのうち、糸と芯と金具は入れ替わり、革は残ったかわりに仕入れ先を1か所に決めました。戻ってきたものを見るたびに、選び直してきた結果です。
戻ってきた、最初の財布
革の仕事自体はもっと前からやっていましたが、自分の工房として売り始めたのは2014年です。いちばん最初に売ったのが、二つ折りの財布でした。それが2016年の夏に戻ってきます。札入れの底、いちばん力のかかるところの糸が切れて、口が開いていました。ご本人は怒らずに「縫い直せますか」とだけ言ってくれました。縫い直しながら、これは使い方ではなく糸のせいだと、もう分かっていました。
靴の修理屋にいたころから、人の作ったものが壊れるところは見てきたつもりでした。自分の縫い目が切れているのを見るのは、まるで別のものでした。
戻ってきたものに、何が起きていたか
12年で、直しとしてお預かりしたうちの品は37点あります。手入れのご相談だけの分は数えていません。1点ずつ書き留めてあるので、どこから先に傷むかは見えています。
- 2〜3年目 ── 札入れの底の糸が切れる。麻糸で縫っていた時期のものだけに出ます
- 5年目あたり ── 内側が波打って、表の折り目に白い筋が出る。芯に厚紙を入れていたころのもの
- 6年目あたり ── ホックのメッキが剥げて、下の色が出てくる
- 年数に関係なく ── コバ(切り口)がめくれる。37点のうちいちばん多いのがこれで、近い数年は年に1、2点です
いま入れているのは、この4つ
革、糸、芯、金具。名前を隠すつもりはないので、ここに全部出します。そのぶん困ることも、同じ行に並べました。
| 部位 | 使っているもの | これにした理由と、そのぶんの不都合 |
|---|---|---|
| 革 | 栃木レザーのヌメ革。表に2.0mm、内装に1.2mm | 傷は磨けば目立たなくなる。かわりに色はダークブラウンとキャメルの2つだけです |
| 糸 | ビニモのMBT 5番。菱目は4mm間隔 | 切れても、直すのは切れた1か所で済む。麻糸のような縫い目の膨らみは出ません |
| 芯 | 床革を0.6mmまで漉いたもの | 折り目に集まる力を、腰のあるもので受ける。82gのうち8gがここです |
| 金具 | 真鍮の無垢。メッキはしていません | くすんでも磨けば戻る。新品のぴかぴかは出ません |
4つのうち、芯だけは外から一度も見えません。表が2.0mm、芯が0.6mm、内装が1.2mm。合わせて3.8mmを毎日折ることになります。0.8mmを超えるときれいに折れず、0.5mmまで落とすと腰が出ませんでした。別たちを研ぎながら漉くので、財布1つ分で15分ほどかかります。
ここまでが、いま何を使っているかという話です。この先は、なぜ前のものをやめたのかを書きます。いま買ってくださる方が10年後に手にしているのは、この4つが古くなった姿です。私は自分の一号目で、それを途中まで見ています。
続きに含まれるもの
- 替えた年と、きっかけになった1点を表にしました。2016年の糸から、来年のコバまで
- 5年使われた財布をほどいたとき、厚紙の芯がどうなっていたか
- 芯を厚紙に戻せば1つあたりいくら下げられるか。それでも戻さない理由と、革の芯で困ること
- 財布「ふもと」が1,200円引きになる、読んだ方だけの購入ページ
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